ひとひらりるれ
恋する暴君に萌のシーツを広げ散らかしたい。

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ハッピーバースデー御両人!

 へんだな、と思ったのは「ただいま」の声がずいぶん小さかったからだ。先輩は帰宅するなり、そそくさと自室にこもってしまった。
「晩御飯、食べますよね?」
「ああ、あとでもらう」
「待ってたんですけど……あ、あのお酒開けちゃいません? こないだ買った日本酒!」
「……先に呑んでてくれ」
 やっぱりへんだ。これじゃまるで、俺に顔を見せたくないみたいじゃないか?
「先輩、大学でなんかあったんですか?」
「なんもねーよ」
「なんにもないなら顔見せてください」
「はあ?」
「開けていい? 開けますね」
「こらっ! 勝手に入んな!」
 ドタドタと駆け寄る足音に先んじるべくドアノブを勢いよく引くと、ギャ!と悲鳴が上がった。しまった。
「大丈夫ですか?」
「く、クソ、森永……!」
 なんだなんだ、向こうからもドアノブを抑えているらしい。力を込めれば開きそうだとは思いつつ、先ほどの悲鳴が気にかかって無理にはできない。そう無理やりは……
「って、なんで悲鳴なんですか! まさか怪我してませんよね?」
「……っ、」
「あ、今見えましたよ! 先輩が『ギクッ』ってなってるの!」
「うるさい! んな漫画的表現やめろ!」
「もういい、開けますから手をどけてください」
「おいっ!」
 開けた瞬間、先輩が後ずさる。顔には「マズい」とはっきり書かれてあるから、何かしらの理由で戦況は開戦早々にして俺が優勢らしい――って、ケンカでもなんでもないんだけど。
 なんでだろう、毎回こんなふうになる。本気じゃないこういうのは割と楽しかったりもする……俺ってタチ悪いかな?
「さ、ワケを話してくださいよ」
 先輩はとうとう後ずさりできなくなった。ベッドにふくらはぎが当たり、それ以上引き下がれない。先輩はその場で大きくため息をつく。ついに観念というわけだ。
「……いいか、絶対、かまうなよ」
「理由によりますよ」
「じゃあ言わん」
「そんな、子どもみたいに」
「おまえは余計な真似をするから嫌なんだ」
「まだなんにも始まってませんよね!?」
 ひどい!と大袈裟に嘆いてみせると、舌打ちの末におずおずと差し出された、右手……には、包帯! 右手が、包帯で、ぐるぐる巻き!?
「ちょっと、どうしたんですか! 捻挫? まさか、骨折とか!? ど、どうしましょう、どう――あたっ! なんで!?」
「早速うるさい」
 屈み込んだ俺のあたまに、鋭いチョップがお見舞いされた。俺はその手をとってまじまじと観察する。
「左手はなんともないんですね、よかった……って、よくないですけど……」
 これじゃ実験も思うようにいかないだろう。近々発表はなかったか? 学会は? ああ、それより日常生活が大変じゃないか、利き手なんだから! それなら俺がこれから先輩の右手に……!
「ぜんぶ声に出てるからな、うっとおしい奴め。これは軽い火傷だ。すぐに処置したから大丈夫なんだよ。助手のやつらが大袈裟にしただけだ」
「火傷……薬品ですか?」
「いや、ヤカン」
 先輩は、しれっと失態を口にした。
「ヤカンって、研究室のお茶用のヤカンですか」
「ああ」
「うっかりさんですか!」
「うるさい、考え事してたんだよ!」
「あああ、俺がいたら俺が沸かして俺が美味しいお茶を淹れてあげるのに……」
「まったくだな」
 キュン、と胸が高鳴った。でしょう、そうでしょう。俺がいたならって思ったんですよね。でも、ああ、俺はひどい男です。こんなに切ない気持ちになるのに、同時に幸せも感じてしまえるなんて。
「せんぱい……」
 抱きしめたい! 今、猛烈に!
「あーあ、どなったら腹が減った」
「あ、まって……!」
 狭い廊下でぴったりマークしていた俺を恐るべきドリブルテクニックですり抜け、先輩はさっさと食卓へゴールしにいった。それでも横に座るスペースはちゃんも空けてくれるんだから心にくい。かわいい。俺はいともたやすくニコニコ笑顔を大安売り!
 キッチンからスプーンを持ち出し、るんるんと指揮棒のように動かしつつ、俺は先輩のとなりに座る。晩御飯はとっくにテーブルにセットしてあったのだ。
「はい、あーん」
「ばっかやろ、よこせ!」
「もー、これくらいさせてくださいよ〜」
「自分で食べられる!」
 照れて真っ赤になった先輩は、無傷の左手で容赦なく俺の顔面を叩こうとする。痛い、目潰しは止めて。鼻フックも。ビンタのが! マシです!
「お前の料理、どれもスプーンなら左手で食えそうなのばっかだろーが」
「チッ!」
「おい」
「骨の多い焼き魚にすればよかった」
「豆腐の和えたやつに、肉じゃが、白米。余裕だな」
「あーあー! ……無理そうなら言ってくださいね」
「わかった。おまえも食えよ」
 スプーンをひったくると、先輩は存外に器用に左手を使った。器を支えられないので、座高の低い子どもがテーブルに顔を近づけて食べているような体勢になっているけれど。まるで実験の最中のように、無言で慎重に、しかし大胆に手を進めている。俺が圧力鍋で15分もかけずに作った肉じゃがが分子レベルで解明されていきそうな、そんな真剣さがおかしい。先輩の生真面目さは、いついかなるときも発揮されるものらしい。そこが愛おしいのは確かだけれど。
「……もっと頼ってくれたらいいのに」
 文句は願望。
 先輩は一瞬うごきをとめた。けれど、すぐに食事を再開した。つまり無視だ。
「いいんです。たぶんスルーされるって分かってて、このタイミングで話してるんです。……学生のころみたいに、俺にかまわれるのはいやですか」
 ちら、と横目がこちらに向く。
「なんだったら、先輩の身の回りのお世話をぜんぶやりたい。おはようからおやすみまで」
「……介護じゃねーか」
「それはいずれ」
「はあ? いちいち大袈裟なんだよ」
「お風呂は? 髪、洗いましょうか」
 先輩はスプーンを食んだまま、しばし思案していた。無言で思案。長考に入った模様。
 そのままおじいさんになるまで考えててよ、オレのこと。
「なーんてね〜」
「だからお前は……声に出てる」
「今度は怒らないんですね」
「ふん、呆れてるだけだ」
 そう言って、先輩は豚肉を頬ばる。乱暴にするから口のはしっこに汁が垂れかかって、こちらをいたずらにソワソワさせる。全くどうしようもない俺は、体温の上昇を誤魔化すべく箸をつける。
「で、どうしてボーッとしてたんです?」
 先輩はジャガイモにスプーンを刺そうとして、失敗した。
「……別になにも」
「考えごと?」
「ちがう、余計な勘ぐりするな」
「考えたのって俺のこと?」
 カツンッ!と皿が激しく鳴って、ジャガイモは一気にぐちゃぐちゃだ。
「先輩、おかず替えてきましょうか?」
「……おまえ、何かほしいもんあるのか」
「えっ?」
「なんでもな、」
「ありますよ、欲しいもの。先輩との時間がもっと欲しい。今みたいな、なんでもない時間をもっと一緒に過ごしたい……俺、ワガママですか?」
 頬杖をついて、呆気にとられたふうな顔を眺める。こちらが笑みを深くすると、先輩の顔はじわりと赤く染まりはじめる。
「……はああ、おまえはすぐそうやって」
 ため息で赤面を誤魔化すんだ ……なあんてね。それは先輩。
「うんざりします?」
「ああ。時間が欲しいったって、おまえのほうが遅いくらいだろ普段は」
「そうなんですよね〜、だからなおさら欲しくって。神頼み、業務進行頼みですね」
 実際、この手の悩みは尽きない。サラリーマンになって短くはない年月が経ち、先輩を経済的にも支えたいと願った学生時代の夢はごく自然と叶えられてはいるものの、しあわせに慣れるとポロリと出てくるのが不満だ。お互い働き盛り、それはとても良いこと。けれど、ふたりで過ごす時間は各段に減ってしまった。嘆くことさえも、慌ただしい日常の中では忙殺してしまいそうになる。
 正直、まさか、先輩が俺のことを考えてうっかりするだなんて。怪我をしてしまったのは心痛むけれど、らしくないミスだと分かるだけに、どうにも照れが混じってうろたえてしまう。だからか、会話遊びに執心している現状だ。
「なあ」
 カチャン、とスプーンを置く音がしたので、俺は先輩をまじまじと見た。改まった話だろうか。
「そんな、抽象的なやつじゃなくて。もっと具体的なのはないのか」
 怒ってもない。ただ、真面目に問われる。
 こんなとき俺は、この人が昔からちゃんと『お兄さん』をやってきたことを知る。弟や妹の不満顔に敏感で、本心ではワガママをきいてやりたい、我慢させたくないって思っているんだとも。俺はそんな先輩を尊敬するし、同時に敵わないと感じてもいる。
 敵わない……つまり、好きでたまらないってことだ。
「なあ、なんで黙るんだ。おまえは、肝心なことは言わんから……俺が聞くしかないだろ、悪いのか」
「いえいえ、悪くないですよ。やさしいなって感動しちゃって」
 笑った俺に、先輩は眉根を寄せる。またおまえははぐらかす、とでも感じたんだろうか。
「じゃあ怒らないで聞いてくださいね。俺が先輩から欲しいもの――」

 結局、俺は先輩から箸を使う権利を譲り受け、肉じゃがの残りを食べてもらった。それに、服を脱がせ、包帯が水に濡れないように袋を被せて風呂にも入ってもらった。目をつぶってやれ、と無茶な注文を受けながら髪を洗ったし、乾かしもした。あとはまあ……パジャマのボタンをとめたり、外したりもしたかな。そのへんは秘密だ。

「疲れた……もうこれっきりだぞこんなこと……」
「今の? ゆっくりしたけどよくなかったですか?」
「ち、がっ! 食わせたり、風呂に入れたりだ! なんでもかんでも好き放題しやがって……言うんじゃなかった」
「今日は最高の誕生日でした、ありがとう先輩。火傷治ったら次は激しめの」
「くそっ、0時だ! 出てく!」
「ちょ、なんでですか朝までって!」
「うるっさい! 時間切れだ阿呆!」
「待って〜!」





(おしまい)




森永くんおたおめでした!
そして兄さん、お誕生日おめでとうございます!

森永くんが喜ぶのは兄さんに許してもらうこと、兄さんが喜ぶのは森永くんの笑顔を見ることだよな〜と思ってたらこんな話になりました。本文で兄さん祝ってない!

先月のガッシュ、その前のでもしみじみ思いました。兄さんはべらぼうに優しいですね。無限の包容力。自分に自信のない森永くんは、表面的には気難しいが中身は情にあつい、こんな人に愛されてるんだって感じるだけで勇気が湧いてくるんだろうなあと思います。温泉ではナニのほうもわきあがるだろうなって展開でしたし、早く続きが読みたいです。

読んでくださってありがとうございました。


暴走もーそーぶん : comments(5)
SS:湯けむりハニームーン

未来永劫バカ』の続きです。ずっと兄さん視点のアンサーSSを書きたいと思ってまして。正月に某所でひっそりUPしたものです。バレンタインとは無関係ですが、お時間ございましたらどうぞ。

※成人向け表現があります。







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暴走もーそーぶん : comments(5)
SS:潤滑剤おことわり!


以前おじゃました某よしきちさんらのオフで、ケーキが無いならエロを書けばいいじゃないと提案いただいた気がしたので、今日はそれをアップしにきました。

夏だね! 夏といえばローションだね!

潔くセックスしかしてないので、成人済かつ心にチ●コを持った方だけ続きを読んでくださいね。1万字近いので胸焼けしたらスミマセン。



***




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暴走もーそーぶん : comments(13)
兄とぼくらのetc.(3)

兄とぼくらのetc.(2)のつづきです。
これでラスト。

中ほどに、挿絵(ぴょっとさん画)を配置してます。

いやされてください(´ω`●)




 ***

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暴走もーそーぶん : comments(4)
兄とぼくらのetc.(2)

兄とぼくらのetc.(1)のつづきです。



 ***


 
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暴走もーそーぶん : comments(0)
兄とぼくらのetc.(1)

更新、ご無沙汰してます。見にきてくださってありがとうございます!

最近は朝晩の寒暖の差がふざけた領域に達してますが、お元気ですか?わたしは常にお腹がへってます。遅すぎた育ち盛りで困ってます。

さて、ひさしぶりの作文は、某ぴょっとさんから頂いたとあるお題をベースに巴くんの昔語りという体裁をとりました。ねつ造ォォ!ねつ造オンパレードォォォォ!ですんでご注意を。

お題については、ここでズバリ書くとつまらんので「兄さんにまつわること」とだけ漏らしときますね……って、お漏らし兄さんではないのでご安心くださいね。あ、がっかりした? がっかりしたかあ〜わかる〜

だがしかーし!

ぴょっとさんから素敵なイラストも頂いちゃいました!投稿の3つめに挿絵として配置させていただいてます。文章はすっとばしてもらって結構なんで、そこだけでも見てってくださいね。すごく清らかで、すこし切なくて。若兄さんが愛おしくてたまらなくなりますよ。

ではでは、お時間ございましたら、暇つぶしに続き読んでってください〜

スマホの方は、ページの一番下「PC表示に切り替え」を全力でお勧めします。長いので……




 ***



 
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暴走もーそーぶん : comments(0)
SS:リビング・ラバーズ


春コミありがとうございましたー\(^o^)/たのしすぎた!
お会いしてくださった方々、ありがとうございました。みなさんいつお会いしてもはつらつとしてるししっかり腐ってるしホント癒されました。女子力ってこうでなきゃなー(?)

スペースにて拙作のうすうすな黄色いコピーを手にとって下さった方、ありがとうございました。
おしらせしましたとおり、その本文を全文掲載します。お時間ございましたら「続きを読む」からどうぞ〜


あ、暴君アンケートは回答に終わりが見えません。
みなさんどうやってこの気持ちを言語化しているんです?(真顔)






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暴走もーそーぶん : comments(0)
謹賀新年! ?正月SS

あけましておめでとうございます。

昨年も更新無精なブログに通ってくださいましたこと、心から御礼申し上げます。大好きです。ん〜っま!(キッス)

暴君読めなくなっちゃうのかなあとビビってましたが、予想外にたくさん読めてほんとハッピーな一年でした。しかも、イラスト集にサイン会に原画展に……あああもっかい2013年カムバッーッック!!

春コミやサイン会、その他のオフ会でもたくさんの方とお会いできたのも嬉しかったです。リア友よりよっぽと連絡取ってるしお会いしてるしwwどないなっとんのや暴君界の居心地の良さww

そろそろ暴君を知って7、8年となりまして。

リアル生活では変化変化の連続で、しんどいときのほうが多かったけど、いつも兄さんの格好良さや可愛らしさをひたすら崇めたり、悩める森永くんに同調して慰められたりするのは一貫して変わらずで。
好きなフィクションはたくさんあるけど、連載を追っかけることで気持ちも支えられたのは暴君しかないと言い切れます。不思議だなあ〜、飽きっぽいのに自信あるのにな〜。

今日もね、単行本化してない連載分を読み返してまして。森永くんの相変わらずの疑心暗鬼っぷりが哀れでおかしいのに、切なくて切なくて。応援したいなあと心から思うんですけどね、ちょーっと兄さんから本音囁かれて調子づくと「おのれ森永」ってなる。でも兄さんがカッコ良くて可愛くて女神めいてるからもう何もかも許すというか許されるというか。この現象ってなんていうやつですかね。あ、踊らされてる?

よーし、今年も目一杯踊らされるぞフィーバーッ\(^O^)/

あ、そうそうこんなしょーもない前口上書いてたら元日すぎちゃったけど、元日設定のSS置いときますね。Blのビの字もない文章ですけど、できたのでさらします。お時間あればどうぞ〜。



 ***



 腹いっぱいになったら眠る子犬のように。

 かなこと森永は雑煮を食った後、早速コタツの魔力によって夢の国の住人になっている。

「おい、おまえらすぐ寝るな。起きろ」
「まあまあ、宗くん。寝かしといてあげましょ」
「……松田さんがそういうなら」
「寝正月も一年に一度きりなんだからいいじゃない?」

 ――それに、子犬みたいで可愛いし。
 ――松田さん、あんたもか。

 無言のやりとりの後、松田さんは満足してコタツのうえのミカンを手に取る。俺もなんとなく同じ動作をとって、テレビも消してしんと静まりかえった元日の松田家で耳をすます。ミカンのスキッとした香りが瞬く間に広がる。それだけで胸のあたりがいっぱいになって、食う前から舌に味が乗った状態だ。

「……宗仁さん遅いわねぇ。巴くんたちは明日って連絡あったけど」
「あのオヤジ、年末には着くって連絡よこしたくせに」
「今、どこに行ってたんだったかしら」
「ギアナ高地」
「あら、遠いわ〜。高知県でも遠いのに」
「………………っ、」
「あら、宗くんの初笑い頂いちゃった?」
「ミカン食ってるときは、ちょっと」
「お茶どうぞ」
「あ、すみません……」

 正月用の小綺麗な湯のみを差し出して、松田さんに茶を頂く。松田さんには生まれたときから世話になっているが、まったくつくづく適わないと思う。笑顔で無茶を言われて、反抗できない唯一の存在かもしれない。

「ん〜ん……はつ……せ、せんぱいのはじめてー!?」
「ばか、うるせーよ!」
 突然に静寂を破った犬には鉄拳だ。
「うぐっ!」
「えっ、なになに初売り!? かなこも行く!!」
 犬その2は頭をはたくに留める。
「いたっ! ひどっ!」
「おまえら寝起きのまま叫ぶな」
「松田さあ〜ん、兄さん意味不明! サイテーなんだけどっ」
「先輩、福袋とか買っちゃう派ですか? 俺はね……」

 ――やっぱり、わんちゃんは元気なほうが。
 ――まあ、元気がないよりは……

 やはり松田さんとは無言で意見を交わし(森永にはヘッドロックだ)、再び騒がしくなった松田家で平和な元日を噛みしめる。本心では実験室にこもりたいが、毎年こうして家族と過ごすと決めているし、それを変えるつもりもない。
 巽家の家屋は、あの忌々しい火事の一件で完全に無くしてしまった。
 気にするな、とオヤジは俺をひとつも責めなかった。それに甘えていることを思うと、こんな「非日常」で静寂のなか、何とも説明しがたい気持ち――後悔だとか無力感だとか――に襲われそうにもなる。
 それなのに松田さんは優しいし、かなこや森永は無害。無事に森永が守ってくれた母の位牌も、松田家に置かれても不満がない様子だ。長男として、やるべきことについて責められるべきだと思っていたとしても、位牌は口などきかない。

 誰も責めない。
 ただただ、安寧に包んでくれている。

「先輩、暇そうな顔してますね」
 すっかり目を覚ましたらしい森永が、ミカン片手にこちらを見つめていた。
「……まあ、実際そうだからな」
 おまえが見てることなんて、気づいていたがほおっておいただけだ。
「じゃあ、ちょっと麻雀でも打ちます?」
 森永は「上がり」の手真似をして不敵に笑う。
「……メンツが足らねーよ。おまえとふたりなんてゴメンだぞ」
「兄さん、かなこ打てるよー。松田さんに教えてもらったもん」
「「ねー」」
「……松田さん?」
「森永くん、納戸の奥にあるから取り出すの手伝って?」
「はーい」

 ――松田さん何してるんですか。
 ――だって、かなこちゃんが教えてって言うから。

「さーあ、準備はできたけど、開始前に何を賭けるか決めましょうね!」
「お年玉の……」
「かなこ、金はダメだ」
「ちぇっ」
「宿題を……」
「もっと駄目だ。あんなもん初日にやっとかんか」
「森永さん、兄さんがムカツク〜! 冗談なのに!」
「あ〜、えっと、じゃあその闘志を牌に込めよう?」
「……ぜったい負けないからねっ!」
「おまえなんかに負けるはずないだろ」
「言ったなあ〜!」
「わたしは……おうどんを打ってほしいなあ、最下位のひとに」
「……うどん?」
「凝ってるのよ。体験教室に通ってから」
「へぇ、松田さんうどんも作れるんですか、すごいなあ〜」
「あら、昨日のお蕎麦も手打ちよ?」
「「「えっ」」」
「よし、決まりね。あと、わたしが親で良いわね?」

 ――松田さん、意外とゴーイン……
 ――家族でも知らないことってたくさんあるわよね。
 ――先輩の秘密も教えてください。
 ――森永、おまえは入ってくるな。

 松田家では誰もが子どもに還る。
 元日は平和に過ぎてゆく。




 ***

ことしも萌え多き一年になりますように。

一期一会の出会い。継続してくださる友情。
ぜんぶ噛みしめて過ごしたいと思います\(^O^)/

拍手やコメント等々、いつもありがとうございます。




暴走もーそーぶん : comments(7)
PS:たくらむ少年勇者くん

メリー! クリスマス! イブ!

なんも用意してなかったから、もうどなたも覚えてらっしゃらないだろう保険医パラレル話の少年森永くん目線の話で、去年から下書き保存してたやつをアップしますね。身も蓋もない! ね、年末だから嘘つかない!

あ、前提として、このパラレルは少年森永くんを得体の知れない雰囲気にしたかったのと、振り回される兄さんが書きたいがために、終始兄さん目線の話にしてたんですね。
が、今回のは少年森永くんの一人称でして。出会い編はまだしも、最終話読んでないと意味不明なとこもあるという、独り善がり乙なオナニー作文となっております。端々が中途半端でごめんなさい。でも今日じゃないとまた来年に持ち越しちゃうから……!ww

ほんとならここでパラレルの1話のリンクでも載せるべきですが、そしたら自分で読み返す羽目になるし、そういう恥ずかしさはツラいので止めました( ´ω`●)
もし小骨が刺さったように気になる方がいらっしゃったら、お手数ですが過去記事を漁ってやってください。

でもこんなとこ来てないで、みなさん愛する人とバグしてチュッチュすると良いですよ!!!



 ***





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暴走もーそーぶん : comments(8)
PS:まじフェアリーM(2)

妖精森永くんと研究員兄さんの妄想が進んだので、続きを更新します。

今回、珍しく展開を考えこんでいまして。
大風呂敷を広げちらかしたいんですが、なにぶん遅筆なもんで例のごとく更新はマッタリな予感です。犬話? こ、今度……!




 ***



 自称妖精を連れて歩く。
 トイレへ向かうロビーをゆきつつ、宗一は施設をうろつくための最低限の注意を投げかけておいた。
「――つまりここは広いから、迷ったり隙間に挟まったりしないように気をつける意味で説明したが、おまえはその点デカいから問題ないな?」
「はい。カフェのキッチンに入ってオーブンを寝床代わりにすることもないし、ロビーに置いてあるモンステラをかくれんぼに使ったりもしません」
 並んで歩く自称妖精は、わざわざ宗一の目元を覗き込んでいたずらっぽく笑う。
 軽口とはずいぶん機嫌が良いようだ。ふつうの妖精ならこの距離を耐えるだけで膀胱がもう音を上げそうなものだが、流石に人間サイズとなると違うものだな……等々、宗一は目を合わせようとする不躾な目線を無意識に避けつつ、代わりに相手の股間を眺めて思った。

 本音をいうと、今すぐ解剖がしたい。

 不穏な空気に怯んだのか、不意に自称妖精の脚が止まった。
「……すみません、これは?」
 指差す先は壁だったので、宗一は「こいつも例にもれず好奇心が強いやつだ」と思った。
「くぼみにボタンがついて……もしかしてこれ、ドアですか?」
「ああ、妖精用のな。そこを開けると簡易トイレになってる。このフロアは基本的に成体は飛行を許してるから……」
 今日は一匹も飛んでいないところを見ると、大方どこかに隠れてこちらを観察しているのだろう。何しろ妖精というのは、好奇心のために生きているような奴らなのだから。
「妖精専用トイレかあ、便利ですね。じゃあ、あっちのは水分補給所? 飲み物が置いてある。ほんと至れり尽くせりだなあ。あ、よく見るとヤ○ルトだ! 懐かしい〜」
 自称妖精は腰をかがめ、飾り棚に置かれた妖精用のドリンクをしげしげと眺めている。たしかにそれはヤク○トで、妖精たちの総意は甘党に偏っているためわざわざ日本から輸入しているもののひとつだった。味もサイズもやつらにちょうどいい。
「デカいおまえにはどれも合わないだろ。人間用のトイレは突き当たりだ。早く行け」
「あ、すみません」
 自称妖精はハッとした様子で、早歩きで処理に向かった。
「しかしあいつ、ぜんっぜん飛ばねーな」
 急ぐのにすら二足歩行だなんて、妖精らしさは本当に何もないじゃないか。
「……おもしろい」
 不可解さは研究者の心をくすぐる。
 チラ、と中庭から入る陽光に光の粉が一瞬だけきらめいた気がして、宗一は嵌め殺しの窓を見つめた。
「しばらくおまえらは休みだ。よかったな」
 サッシの上、こちらを伺う小さな小さなふたつの目玉を睨み上げて言う。
 途端にバサバサと不格好に飛び去つ背中。おそらく仲間にニュースを届けにいったのだろう。
 妖精研究には国際的な取り決めが多く、例えば生きた解剖などは御法度である。ゆえに彼らは基本的にのびのびと暮らしているのだが、宗一の手荒な扱いはその唯一の天敵として君臨するに等しかった。
 よって、妖精たちは影で宗一を『鬼』と呼んでいた。鬼の新しい研究の期間はいつまでだか不明とはいえ、妖精たちはバカンスの訪れだと狂喜乱舞するだろう。

「ふん、阿呆どもめ……って、おまえ!」
「おまたせしました」
「近い!」
 いつの間に帰ってきたのか、背後をとられた宗一は声を荒げた。
「中庭もきれいですね。ここの妖精たちは幸せそうでいいなあ」
 自称妖精はガラス窓に両手をつけて、まるで車窓からの景色にはしゃぐ子どものようだ。
「まず、不幸な妖精なんていないだろ」
 なぜなら妖精は不幸を感じると呆気なく死んでしまう。そういう性質だからだ。
 だから飼育本がよく売れる。人間にとっては、妖精は高価なのに飼うのが難しい代表のような存在だ。
「そうですね……」
 自称妖精は、色づくニホンカエデを見つめてそれきり押し黙った。
 なにか興味を惹かれる対象があったのだろうか。
 宗一は木の周りを飛び交う、つがいのコマドリを目で追った。
「それだけデカいと鳥にも食われなくて済むな」
 自称妖精はキョトンと、つぶらな瞳を更に丸くする。
「……もしかして、ここの窓が嵌め殺しなのも」
「間違って開けてみろ。お仲間があいつらの『ツマミ』になるぞ」
「イヤー! 大自然こわいー!」
「うるさい、測定をはじめる!」

 鼻息荒く研究室へ引きずって歩く宗一だったが、彼はまだ知らない。
 自称妖精の服を脱がせたその背に、妖精の証である羽根など存在しないことを。






 ***


タイトルに相違があるような、ないような。
でも訴えないでください泣きます。

ご存知だと思いますが、作中のモンステラとは観葉植物です。葉が大きくて南国っぽい。ヤ○ルトにはインフル予防の力もあると広告に書いてました。コマドリは英国の国鳥だそうです。wiki先生に聞きました。でも別にこれらの情報は複線に繋がったりしません。

いつも閲覧、拍手、コメント等々ありがとうございます。
森永くんが詐欺ってるとか、中指の爪が伸びる件についてツッコミをもらえて嬉しかったです。
これは話の都合上、肝にあたる部分なので覚えておいてもらえるとありがたいです。
予測不可能な展開を目指して着地点を明後日の方角に用意していますので(?)
……どうぞ生暖かく見守ってください<(_ _)>

あ、そうそう。

ネットで「なるとでブッシュドノエル」っていうレシピを見かけました。これなら兄さんもひとりでできるな、今年のクリスマスは勝ったも同然だなって思いました。

画像検索するといいと思います( ^o^ )






 
暴走もーそーぶん : comments(6)
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