妖精森永くんと研究員兄さんの妄想が進んだので、続きを更新します。
今回、珍しく展開を考えこんでいまして。
大風呂敷を広げちらかしたいんですが、なにぶん遅筆なもんで例のごとく更新はマッタリな予感です。犬話? こ、今度……!
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自称妖精を連れて歩く。
トイレへ向かうロビーをゆきつつ、宗一は施設をうろつくための最低限の注意を投げかけておいた。
「――つまりここは広いから、迷ったり隙間に挟まったりしないように気をつける意味で説明したが、おまえはその点デカいから問題ないな?」
「はい。カフェのキッチンに入ってオーブンを寝床代わりにすることもないし、ロビーに置いてあるモンステラをかくれんぼに使ったりもしません」
並んで歩く自称妖精は、わざわざ宗一の目元を覗き込んでいたずらっぽく笑う。
軽口とはずいぶん機嫌が良いようだ。ふつうの妖精ならこの距離を耐えるだけで膀胱がもう音を上げそうなものだが、流石に人間サイズとなると違うものだな……等々、宗一は目を合わせようとする不躾な目線を無意識に避けつつ、代わりに相手の股間を眺めて思った。
本音をいうと、今すぐ解剖がしたい。
不穏な空気に怯んだのか、不意に自称妖精の脚が止まった。
「……すみません、これは?」
指差す先は壁だったので、宗一は「こいつも例にもれず好奇心が強いやつだ」と思った。
「くぼみにボタンがついて……もしかしてこれ、ドアですか?」
「ああ、妖精用のな。そこを開けると簡易トイレになってる。このフロアは基本的に成体は飛行を許してるから……」
今日は一匹も飛んでいないところを見ると、大方どこかに隠れてこちらを観察しているのだろう。何しろ妖精というのは、好奇心のために生きているような奴らなのだから。
「妖精専用トイレかあ、便利ですね。じゃあ、あっちのは水分補給所? 飲み物が置いてある。ほんと至れり尽くせりだなあ。あ、よく見るとヤ○ルトだ! 懐かしい〜」
自称妖精は腰をかがめ、飾り棚に置かれた妖精用のドリンクをしげしげと眺めている。たしかにそれはヤク○トで、妖精たちの総意は甘党に偏っているためわざわざ日本から輸入しているもののひとつだった。味もサイズもやつらにちょうどいい。
「デカいおまえにはどれも合わないだろ。人間用のトイレは突き当たりだ。早く行け」
「あ、すみません」
自称妖精はハッとした様子で、早歩きで処理に向かった。
「しかしあいつ、ぜんっぜん飛ばねーな」
急ぐのにすら二足歩行だなんて、妖精らしさは本当に何もないじゃないか。
「……おもしろい」
不可解さは研究者の心をくすぐる。
チラ、と中庭から入る陽光に光の粉が一瞬だけきらめいた気がして、宗一は嵌め殺しの窓を見つめた。
「しばらくおまえらは休みだ。よかったな」
サッシの上、こちらを伺う小さな小さなふたつの目玉を睨み上げて言う。
途端にバサバサと不格好に飛び去つ背中。おそらく仲間にニュースを届けにいったのだろう。
妖精研究には国際的な取り決めが多く、例えば生きた解剖などは御法度である。ゆえに彼らは基本的にのびのびと暮らしているのだが、宗一の手荒な扱いはその唯一の天敵として君臨するに等しかった。
よって、妖精たちは影で宗一を『鬼』と呼んでいた。鬼の新しい研究の期間はいつまでだか不明とはいえ、妖精たちはバカンスの訪れだと狂喜乱舞するだろう。
「ふん、阿呆どもめ……って、おまえ!」
「おまたせしました」
「近い!」
いつの間に帰ってきたのか、背後をとられた宗一は声を荒げた。
「中庭もきれいですね。ここの妖精たちは幸せそうでいいなあ」
自称妖精はガラス窓に両手をつけて、まるで車窓からの景色にはしゃぐ子どものようだ。
「まず、不幸な妖精なんていないだろ」
なぜなら妖精は不幸を感じると呆気なく死んでしまう。そういう性質だからだ。
だから飼育本がよく売れる。人間にとっては、妖精は高価なのに飼うのが難しい代表のような存在だ。
「そうですね……」
自称妖精は、色づくニホンカエデを見つめてそれきり押し黙った。
なにか興味を惹かれる対象があったのだろうか。
宗一は木の周りを飛び交う、つがいのコマドリを目で追った。
「それだけデカいと鳥にも食われなくて済むな」
自称妖精はキョトンと、つぶらな瞳を更に丸くする。
「……もしかして、ここの窓が嵌め殺しなのも」
「間違って開けてみろ。お仲間があいつらの『ツマミ』になるぞ」
「イヤー! 大自然こわいー!」
「うるさい、測定をはじめる!」
鼻息荒く研究室へ引きずって歩く宗一だったが、彼はまだ知らない。
自称妖精の服を脱がせたその背に、妖精の証である羽根など存在しないことを。
***
タイトルに相違があるような、ないような。
でも訴えないでください泣きます。
ご存知だと思いますが、作中のモンステラとは観葉植物です。葉が大きくて南国っぽい。ヤ○ルトにはインフル予防の力もあると広告に書いてました。コマドリは英国の国鳥だそうです。wiki先生に聞きました。でも別にこれらの情報は複線に繋がったりしません。
いつも閲覧、拍手、コメント等々ありがとうございます。
森永くんが詐欺ってるとか、中指の爪が伸びる件についてツッコミをもらえて嬉しかったです。
これは話の都合上、肝にあたる部分なので覚えておいてもらえるとありがたいです。
予測不可能な展開を目指して着地点を明後日の方角に用意していますので(?)
……どうぞ生暖かく見守ってください<(_ _)>
あ、そうそう。
ネットで「なるとでブッシュドノエル」っていうレシピを見かけました。これなら兄さんもひとりでできるな、今年のクリスマスは勝ったも同然だなって思いました。
画像検索するといいと思います( ^o^ )